和風の楽曲や、和楽器の音色を効果的に使った楽曲を作りたい… しかし和楽器なんて持っていない、演奏できない!という場合に、DTMで使える和楽器のソフト音源をご紹介します。
今回は、箏(琴/こと)編ということで、箏のソフト音源4種類を取り上げました。
なお、当サイトは主に和楽器業界内部の方向けの内容を扱っていますが、このページはそれ以外の方もご覧になると思いますので、和楽器やその奏法に関する簡単な説明も含みます。
箏姫かぐや
「箏姫かぐや」はPREMIER SOUND FACTORYが出しているソフト音源。箏(十三絃)だけでなく、十七絃のデータも入っているのが特徴です。
十七絃とはどんな楽器?
十七絃は通常の箏よりも出せる音域が低く、現代の和楽器合奏において伴奏やベースとしても活躍する楽器です。J-POPのアレンジや現代的な曲において低音部分を担当する音として使用する場合は、十七絃の音色が適していると思われます。
一方、十七絃は和楽器の中では歴史がとても浅く、「春の海」の作曲者としても有名な宮城道雄氏が1921年(大正10年)に公開した楽器です。そのため、宮城道雄氏以前の古典的な曲に十七絃が使われることはありません。もし、古典箏曲をイメージして作曲する場合、十三絃の箏のみを使用するほうが自然かもしれません。
高音域もOK!多彩な調子も収録
また、以下のように高音域にも対応しています。
13弦はB1-A4までが実用範囲ですが、通常のお箏のシミュレーションのNormalモードの他に、特殊な現代の高音用お箏で高域A#4 – G5を補完したExpand(拡張)モードも収録。あらゆる音域に対応します。
(箏姫かぐや 公式サイトより引用)
確かに、現代において作曲される箏の楽曲は、従来の楽曲、古典的な楽曲と比べて高音域を使った曲が多く見られます。「箏姫かぐや」はB1からG5の範囲まで扱えるということで、かなり広い音域をカヴァーしたソフトと言えるでしょう。
十七絃の方はC1-E3の範囲となっています。
調子については、古典箏曲で使われるものを中心に36種類が収録されています(移調も自由に可能)。オーソドックスな平調子、雲井調子、楽調子などの他に、カンカン調子、明梅調子といった珍しい調子も含んでいます。
収録されている奏法
・リアル(Note Onで爪音、Note Offで弦を弾く、実際のお箏に近い操作感)
・通常(Note Onで爪音に続いて弦音も再生)
・すくい爪(アップストローク)
・ミュート
・ピチカート
・スタッカート
・ハーモニクス
・後(あと)押し(ピッチ・ベンドUp)
・後(あと)押し 半音(ピッチ・ベンドUp)
・押し離し(ピッチ・ベンドDown)
・押し離し 半音(ピッチ・ベンドDown)
・突き色(ピッチ・ベンドUp&Down)
・引き色(わずかに弦を引きベンドダウン)
・オルタネイト(ダウン&アップストロークを交互に再生)
・トレモロ
・効果音FX
(箏姫かぐや 公式サイトより引用)
箏の奏法としては、一般的によく使用する奏法が一通り入っている印象です。
特にスクイ爪やトレモロは古典的な曲・現代的な曲問わず各所に取り入れられており、作曲時に「箏らしい」イメージの奏法として使用することも多いかもしれません。
監修、演奏に和楽器のプロ演奏家
このソフト音源を開発するにあたっての監修は三塚幸彦氏、演奏が小野美穂子氏とのことです。
このお二人といえば箏、尺八、ギターのユニット「遠tone音」(とおね)のメンバー。和楽器のプロが2名も入って作られたソフトということでは信頼ができると言えそうです。
KOTO13
「KOTO13」はメディア・インテグレーションが出しているソフト音源。名前の通り、箏(十三絃のみ)のデータが入っています。
音域・調子
音域はB1-D5の範囲となっています。
調子は、主に古典箏曲で使用される調子が28種類収録されています(移調も自由に可能)。「箏姫かぐや」よりは少ないものの、主要な調子はほとんど含まれており、十分に使える内容かと思います。
収録されている奏法
親指爪、人差し指爪、中指爪、ピチカート(左手)、ピチカート(右手)、ダブル、消し爪、後押し(半音)、後押し(全音)、弱押し、強押し、押し放し(半音)、押し放し(全音)、突き色(半音)、突き色(全音)、引き色、揺り色(緩 / 半音)、揺り色(緩 / 全音)、揺り色(速 / 半音)、揺り色(速 / 全音)、スクイ爪、散らし爪(緩)、スクイ爪(速)、トレモロ、スクイ爪トレモロ(緩)、スクイ爪トレモロ(速)
(KOTO13 公式サイトより引用)
箏は右手の親指、人差し指、中指に専用の爪をはめて演奏しますが、力の強さや角度の違いなどから、それぞれの指によって音色に違いが出てきます。ピチカート(爪を付けていない指を使って演奏する奏法)も、左手と右手では絃に触れる位置が異なり、音色が異なってきます。そのような細かい違いまでをしっかりと収録しており、収録パターンの種類ではダントツの多さです。
演奏に和楽器のプロ演奏家
収録データは、箏演奏家の丸田美紀氏の演奏です。「沢井忠夫合奏団」や「KOTO VORTEX」のメンバーとしても活躍されている方です。
VS KOTO
「VS KOTO」はVersus Audioが出しているソフト音源。箏(十三絃)のデータが収録されています。
音域・調子
平調子、半雲井調子、雲井調子、本雲井調子、古今調子、中空調子、乃木調子、楽調子、それぞれ壱越(D)双調(G)(※古今調子は壱越のみ)、更に高低を逆にしたものを収録しています。もちろん、C1~A4の範囲でオリジナルのチューニングにすることもできます。
(VS KOTO 公式サイトより引用)
音域はC1〜A4ということで、非常に低い音を出すことができます。
調子は8種類。自由に好きな調へ移調できるのではなく、DとGの2種類である点に注意が必要です(DとGは古典箏曲では主要な調です)。
収録されている奏法
13弦琴のサステイン、ピチカート(指弾き)、掬い爪、散らし爪、裏連、ブラッシングノイズ、ピックノイズ(弦に爪が当たる音)、すり爪を収録。
(VS KOTO 公式サイトより引用)
奏法の種類としては他の製品に比べると少なめ。比較的よく使用するトレモロが入っていないので、単音の連打などで対応する必要があるかもしれません。
以上のように、収録内容だけを見ると、上記2製品「箏姫かぐや」「KOTO13」よりもボリュームが少なく感じるソフトです。ただ、その分手の届きやすい価格となっています。
KOTO NATION
「KOTO NATION」はIMPACT SOUNDWORKSが出しているソフト音源。箏(十三絃)、十七絃、地唄三味線の3種類の楽器のデータが収録されています。
音域・調子
箏は平調子、十七絃はCメジャーのみが収録されています。
収録されている奏法
サスティン(ピック、指)/ピッチカート/オクターブ/グリッサンド
モルデント(ピッチベンド)/ミュート/ヴィブラート/トレモロ/
アトーナル・グリッサンド/フィンガースクレイプ/
ストリングスヒット/ハードプラック
(SONICWIREのサイトより引用)
箏奏者には馴染みのないカタカナ名が並んでいますが… 海外で作られた製品のため、奏法名が英語になっています。モルデント(ビッチベンド)はアトオシやツキ奏法を意味すると思われます。その他も、伝統的な奏法に該当すると思われますが確認ができておりません。
演奏に和楽器のプロ演奏家
収録データは、箏演奏家の石榑雅代(いしぐれまさよ)氏の演奏です。ニューヨークを中心に活躍されている方です。
4製品の比較
個人的な観点からではありますが、このページでご紹介した4製品を比較してみました。
箏姫かぐや | KOTO13 | VS KOTO | KOTO NATION | |
---|---|---|---|---|
楽器の種類 | ◎ | ○ | ○ | ◎ |
音域・調子 | ◎ | ○ | △ | △ |
奏法 | ○ | ◎ | △ | ○ |
収録演奏 | ○ | ○ | ? | ○ |
金額 | ○ | △ | ◎ | ○ |
総合的に見て、あらゆる楽曲で本物の箏らしい音色を表現したいのであれば「箏姫かぐや」がバランスが良いと思います。音数が少ないシンプルな音楽の中で、箏にスポットを当ててしっかりと音色を聴かせたいのであれば、最も多くの奏法の入った「KOTO13」が活躍しそうです。
コスパ重視であれば、箏・十七絃・三味線の3種類の音色が入った「KOTO NATION」を使えば、すぐに多様な和風の音楽が作れます。和楽器に詳しくないけど、とりあえず作ってみたいという方には、収録内容が少なくても金額が格段に安い「VS KOTO」が選択肢に入るでしょう。
今回詳しく比較していない特徴としては、他にマイクの位置(音の広がり方)の種類や、利用環境の違いもあります。ご自身の環境、作りたい楽曲に合わせて適したソフトをご選択ください。
2020年9月公開