箏のパーツの名称と概要を知ろう!〜箏を描く参考資料として〜

箏のパーツの名称と概要を知ろう!〜箏を描く参考資料として〜

近年では、少しずつではありますが和楽器のイラストやデザイン、画像素材などをインターネット上やアニメ、漫画などで見かけるようになりました。
しかし、実際に和楽器を演奏する人がよくよく見てみると、ちょっとおかしい部分があったり、リアルさがなかったり… そういった作品・素材も散見されます。

もちろん、和楽器のイラストや画像がたくさんの方の目に触れること自体は嬉しいのですが、ぜひ少しでも楽器自体のことを詳しく知り、リアルに描いていただけるとありがたい!という思いをきっかけに、和楽器の部位(パーツ)の名称や形状、用途などについて解説していくことにしました。イラストやデザイン作成のご参考になれば幸いですし、これから和楽器を習ってみたい方などもぜひご参考ください。
この記事では、箏について紹介しています。

※本記事に使用する楽器の写真には画像素材も併せて活用してみました。見たことのある画像もあるかもしれませんね。

箏の大きさ

箏の全体像

パーツの話の前に、まずは箏ってどれくらいのサイズなの?という話から。
こちらは一般的な箏の写真です。漠然と箏は非常に大きい楽器というイメージをお持ちの方が多いと思いますが、実は長さはさまざまです。

現在一般的に普及しているのが、182cm(六尺)の山田箏です。他に191cmの生田箏があったり、持ち運びに便利な短箏タイプのものもあったります。短箏タイプはメーカーによって違いがありますが、通常の箏の半分〜2/3程度の長さです。
(筆者も山田箏、生田箏、130cmの短箏、100cmの短箏を所持しています。)

イラストを描く際には、成人男性の背よりも少し高いくらいをイメージすると良いかもしれません。
また、畳の部屋を想定する場合は、畳1畳の長辺の長さとほぼ同じに描くと良いです。

箏の長さがさまざまであるのは、畳のサイズが地域によって異なることと繋がっており、例えば関西でよく使われる畳「京間」の長さと、京都から広まった生田流の生田箏の長さは全く同じ191cmです。

箏の全体像

では、箏の全体像を見ていきます。
紹介するのは、龍頭、龍尾、龍甲、磯、龍腹、琴柱、糸です。
箏のパーツの名称には、楽器全体を想像上の生き物:龍に見立てていることから「龍」の名前が付いているものが多いです。

※「龍」「竜」どちらの字でも構いませんが、本記事では「龍」を使用しています。

箏の各パーツの名称(全体)

①龍頭

演奏者から見て、箏の右側(弾く側)が龍頭(りゅうとう/りゅうず)です[上の画像では左側]。
こちら側が龍の頭や顔の部分になり、龍頭部分の各パーツにはそれぞれ顔に関する名称が付いています。

②龍尾

演奏者から見て、箏の左側が龍尾(りゅうび)です[上の画像では右側]。頭に対してしっぽの部分ですね。

③龍甲

箏の胴体上面を龍甲(りゅうこう)と呼びます。単に「甲(こう)」と呼ぶ場合もあります。龍の背中の部分に当たります。

④磯

磯(いそ)は龍甲に対して側面の部分を指します(画像では見えていない、演奏者側の側面も同様です)。

⑤龍腹

画像では見えていませんが、箏の胴体下面の部分を龍腹(りゅうふく)と呼びます。

⑥琴柱

琴柱(ことじ)は単に「柱(じ)」とも呼び、これを左右に移動させることによって、音の高さを調節します。通常、演奏者から見て一番手前側の琴柱(巾柱)のみ形状が異なっており、箏本体の角にフィットするような形になっています。

※一番奥の琴柱の形状も、同様に角に合わせた形になっている場合もあります。他にも、演奏する曲のチューニング等に合わせて多様な形・サイズの琴柱を使います。

代表的な琴柱の種類
画像:代表的な琴柱の種類(一番左が巾柱、その隣が通常サイズ)

⑦糸

箏の絃(弦)を糸と呼びます。13本の糸を持つ箏が最も普及しており、「箏」というと通常はこの楽器を指します。

そのほかにも低音を担当する十七絃、西洋音階の曲や現代的な曲を演奏するために絃数を増やして作られた二十絃(実際には21本の絃数がある)、二十五絃、三十絃などもあります。
最も絃数が多い箏としては、宮城道雄が開発した八十絃が存在します(復元されたものが1面のみ、宮城道雄記念館に展示されています)。

[画像などを参考にする際のポイント]
参考にする写真等が十三絃の箏なのか、それ以外の多絃の箏なのかを把握して、糸の角度や琴柱の位置などを確認しておきましょう。イラストを描く際には、スペースやテイストの都合上、糸の本数を減らして簡略形にすることがあると思いますが、その場合も同様です。

箏の龍頭側のパーツ

龍頭のほうにあるパーツを細かく見ていきます。
紹介するのは、龍額、口前、龍舌、口前袋、竜眼、龍角、枕角、四分六、猫足(および取り付け箇所)、音穴です。

箏の各パーツの名称(龍頭側)

⑧龍額

演奏者から見て、箏の胴体の一番右側に当たる部分が龍額(りゅうがく)です。龍のひたい(おでこ)に当たる部分です。

⑨口前

龍頭の先端部分が口前(くちまえ)です。龍口とも呼ばれます。

⑩龍舌

口前の内側、少し凹んだところに位置するのが、龍舌(りゅうぜつ)です。箏のグレードによっては蒔絵などの装飾が施されていることもあります。

[画像などを参考にする際のポイント]
簡単に絃の張りの強さを調節できる「ピン式」の箏もあります。ピン式の場合はこの部分にピンが挿入されており、ハンドルを差し込んで回すことで、張りを調整することができます。
どのタイプの箏なのかを確認しておきましょう。

ピン式の箏
ピン式の箏

⑪口前袋

龍額や口前がある部分に、写真のように綺麗な柄が付いているのを見たことがある方がいらっしゃるかもしれません。
これは実は取り外しが可能なカバーで、口前部分を保護するために付けられています。舞台上では基本的にこれを外して演奏します。
口前袋は、口前カバーとも呼ばれます。

⑫龍眼

絃を通している穴には金具が付けられており、ここは目に見立てて龍眼(りゅうがん)と呼ばれます。芯座とも呼びます。絃の数とイコールになります。

⑬龍角/⑭枕角

龍角(りゅうかく)と、その上にある細くて白いパーツ 枕角(まくらづの)は③龍甲と⑦糸との間に高さを出し、ピンと張った糸を支える役目をしています。ここが龍のツノなのですね。
箏のグレードによって、装飾の種類が異なります。

⑮四分六

四分六(しぶろく)は龍角と龍眼を囲うように施されている装飾です。四分六板とも呼ばれます。
箏のグレードによって、装飾の種類や素材の種類が異なります。

⑯猫足/⑰猫足取り付け箇所

⑱音穴から出る音を外へ出すために、高さを上げて隙間を作る役割をするのが猫足(ねこあし)です。ここだけ龍ではなく猫…ですが、龍手、上足と呼ぶこともあります。
⑰の取り付け箇所に設置しますが、⑰がないタイプの箏もあります。猫足を使わない場合は、琴台(画像の朱色の台)を使用します。

⑱音穴

箏の裏側には穴が空いており、音穴(いんけつ)と呼びます(丸口とも呼びます)。ギターなどの西洋楽器にもある「サウンドホール」と同じで、箏の糸の振動が琴柱を通して胴へ伝わり、その中で共鳴し、この部分から外へ出ていくため、重要な役割を担っている部分です。
山田流の箏と生田流の箏では、音穴の形が異なります(画像は山田流)。

よくある間違い

以下のようなイラストを見かけることがあります。
まず、⑯猫足と⑪口前袋は同時に使うことができません。⑰猫足取り付け箇所が口前袋で覆われてしまうためです。
琴台と口前袋は同時に使うことができます。

また、恐らく思い込み描いたと思われますが、龍尾にも口前袋が被せてあることがあります。龍頭のみに着けるのが正しいです。

箏の口前袋の付け方の間違い

箏の龍尾側のパーツ

続いて、龍尾のほうにあるパーツも細かく見ていきます。
紹介するのは、糸の余り部分、柏葉、尾布、雲角、長足、蜈蚣足、音穴です。

箏の各パーツの名称(龍尾側)

⑲糸の余り

これは正式な名称ではありません(おそらく名称は無いと思います)。
糸の余った部分がぐるぐると巻かれています。
糸が切れてしまった時や、摩耗してしまった時には、この余った部分の糸を弾く側と入れ替えたりずらしたりして、再度締め直して使用します。

ピン式の箏は、基本的にこの部分がありません。

⑳柏葉

柏葉(かしわば)は装飾が施された部分です。
箏のグレードによって、装飾の種類や素材の種類が異なります。

㉑尾布

尾布(おぎれ)は龍尾を包むように張られている布で、基本的に⑩口前袋と柄を揃えます。
箏本体と糸が直接触れることで、損傷してしまうことを防ぐ役割があります。
尾布の上に掛かっている糸は、画像では4本・5本・4本にまとめられていますが、掛け方は流派によって異なります。

㉒雲角

雲角(うんかく)は⑫龍角と似た役割で、龍尾側で糸を支えています。
箏のグレードによって、装飾の種類が異なります。

㉓長足/㉔蜈蚣足

側面にあるのが長足、末端にあるのが蜈蚣足(むかであし)です。下足とも呼びます。
山田流の箏と生田流の箏では形が異なります(画像は山田流)。

㉕音穴

⑱の音穴と同じものが、龍尾側にも付いています。こちらの音穴は、糸を通すためにも使われます。

よくある間違い

長足に関連して、たまに長足のような台が箏の左右両方についているイラストを見ることがありますが、それは間違いで、長足は龍尾側のみです。龍頭側は、⑯猫足または琴台を使います。

箏の置き方(琴台、猫足を使う)

おわりに

本記事では箏のパーツについて、簡単にご紹介してきました。
本当はもっと詳しく書かないと分かりづらい箇所もあると思いますが、ページがあまりにも長くなってしまうのでこのへんで。
興味を持った方は、ぜひ書籍などで学んでみることをおすすめします。

爪の当て方や演奏する姿勢など、いつか人物(奏者)編も作ってみたいですね。

本記事内でご紹介したパーツの形、名称などは箏の種類や流派、制作元、販売元、時代、地域などによってそれぞれ異なることがありますので、あくまで一例としてご認識ください。

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